医療法人一元会 松井山手西川歯科医院 ペリオ・インプラントクリニック インビザライン矯正

2018.01.16マイクロスコープによる診療について

当医院に初めて来院される患者さんは、既に来院されている方からのご紹介、もしくは事前に当医院の治療方針について予め下調べされてからの事が多い。
しかしながら、実際にマイクロスコープを用いての診療を経験された方は皆無に等しく、感動されることも多い。
同時に誤解も多いので、繰り返しになるが、マイクロスコープによる診療の当医院の基本的考え方とメリット、デメリットを整理して記したいので、参考にしていただきたい。
基本的考え方
・現在、日本には7000台の歯科用マイクロスコープが存在すると言われている。(業者の統計)
 しかしながら、マイクロスコープと言ってもピンきりであり、単なる保険点数稼ぎで、高度な診療には到底耐えられな
 い安物から、きちんとしたものまで様々であるが、世界的な評価のあるメーカーのものは半分くらいしかない。
 日本には歯科医院が7万軒あると言われているので。普及率10%ということになるが、実際は、
 大学病院や、個人医院でも複数台所有している(当医院も含め)場合もあるので、実際にマイクロスコープの普及率は
 3%にも満たないと言われているので、意外と少ないし、装備している事実のみが宣伝され、患者さんが振り回されま
 わされている部分が多々ある。
 また、マイクロスコープといっても実際に日々の診療において使いこなすことは非常に高いハードルがあり、挫折も多
 く、相当数のマイクロスコープが単なる客寄せパンダで、実はホコリを被っているという現実がある。
 我々の業界では、彼ら歯科医をマイクロスコープ難民と呼んでいる。
・マイクロスコープは大きく拡大するための道具、ただ、それだけである。
 マイクロスコープが勝手に、かつ、単独で高度な診療ができるわけではなく、高度な診療を達成するのはあくまでも歯
 科医の技術によるものである。
 マイクロスコープで細部を探索し、細かな治療を行ってゆくのは歯科医自身である。
 なので、マイクロスコープ導入(マイクロスコープに限らず、他の診療機器も)と広告している歯科医院も、
 実際の症例紹介がないなら、あっても少しなら、それを使用して高度な診療を実際に行っているか否かは、分からな
 い、もしくは誇大広告の場合も多い。
 このような事が嫌なので、私はBlogなどで、症例紹介を行っている。
・マイクロスコープ単独で高度な治療が出来ないことは前述通りであるが、高精度な診療を行おうとするなら、
 マイクロスコープ以外にも専用の診療機器(非常に細かな作業が可能な)を一式揃える必要があるが、保険診療メイン
 で、症例数も少ない一般的な歯科医院でそのような高額な機器を揃えることは全くペイせず不可能である。
 なので、当医院では単なるキレイ事、マイクロスコープ使ってます感を演出して患者さんにドヤ顔している訳ではない
 ので、当然コストは発生する。
・したがって、全ての保険診療に用いることはコスト的にも、さらには診療時間的にも(マイクロスコープを用いての診
 療は非常に時間がかかる)無理であり、保険外診療中心の使用にならざるをえない。
 そもそも、患者さんご自身の治療に対する高い要求と意識が存在することが大前提であり、かつ、マイクロスコープを
 用いての治療内容に十分なご理解を頂けることも必要であり、関心の低いような人など、誰にでも無条件に行うべきも
 のではない。
 これは、マイクロスコープ治療に限ったことではなく、複雑、高度な治療全般に言える。
・マイクロスコープを根管治療に用いるにしても、最初から最後まで高拡大で使用しているわけではなく、ファイルで根
 管拡大している時は、単に根管口部分を眺めているだけなので、実は何の役にも立っていない。
 この辺りは患者さん自身の誤解も多いし、歯科医自身もマイクロスコープを絶えず20倍以上の強拡大で使用している訳
 ではない。
 それ以前の根管口の探索、イスムス、フィン、パーフォレーション、クラックの確認には非常に有効だが、
 ×4倍以上の高倍率のルーペでも問題ないが、マイクロスコープを使った方がハッタリ感が出るのも事実で、
 みんな騙される。
 それよりも、歯周外科処置(外科的根管治療なども)、歯牙形成、補綴物の適合確認の時には非常に有用。

メリット
・処置部位を拡大することにより、問題点の探査、把握、治療介入量の減少による良好な予後、早期の治癒が期待できる
 が、これはなにもマイクロスコープでなくても強拡大のルーペなどで達成可能な場合も多く、話が膨れすぎのきらいが
 あることは要注意。
 私も、日々の診療の70%はルーペ(×4.5〜8.0)、30%がマイクロスコープであり、適宜使い分けているが、
 逆に言えば、日々診療のほぼ全てをルーペもしくは、マイクロスコープを使用している。
 やはり、マイクロスコープを用い、根管の先までハッキリ見たりすることは、日々診療で手探り感が減少し、ストレス
 減少となるが、ルーペの方が機動力は高い。
 根管治療中も、ファイルの先端が根管を拡大しているのをリアルタイムで見れるわけではないし、歯周外科処置も、
 脳外科、形成外科のように肉眼で識別困難な血管等の縫合を行うわけでもない。
・動画、静止画記録できるので、患者さんへの説明は非常に便利である。
デメリット
・術者の技術が大部分。
 拡大倍率以上の精度で処置を行う必要があるが、長時間のトレーニング、経験が必要であり、導入、即戦力とはならな
 い。
 このあたり、私は開業当初、約20年前から使用しており、昨日、今日、単なる流行りで使用していない。
・細かい部分ばかりに気が行ってしまい、いわゆる「木を見て森を見ず」の状態になり、危険な場合もあること。
・治療時間。
 細かいところまで気になるので、どうしても時間がかかる。
 もし、マイクロスコープを導入と言いつつも診療時間がそれほどでもないなら、それは、マイクロスコープを使って本
 当に診療しているとは言えない。
 単に眺めてウンウン言って、何か繊細な治療を行っているフリをして、患者に凄いと言わせるためのものではない。
・コスト。
 現在、一部の治療行為にしか保険は適応されておらず、それも様々なルールがある。
 マイクロスコープを用いての診療に使用するその他の機器は猛烈に高価である。
 したがって保険診療において最初から最後までマイクロスコープを用いて全て診療は不可能であり、客寄せリップサー
 ビス、キレイ事ならともかく、どこかで一線引かざるをえない。
・少なくとも根管治療などは、マイクロスコープを用いる、用いないにかかわらず、予後の成績にあまり有意差がないと
 いう報告もあり、過度の期待は禁物。
 個人的には懐疑的であり、実感としても、やはり、鬼に金棒的要素は絶対あると思う。

カメラが趣味の方ならお分かりだと思うが、絶えず超望遠レンズをつけていてもいい写真は撮れない。
被写体に合った、自分の意図する構図に合った焦点距離のレンズ、広角、標準、中望遠・・・・を使い分けて使用することは当たり前の事であるが、アマチュアカメラマンほど用途の限られる白長玉に憧れるのと似ているかもしれない。
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