医療法人一元会 松井山手西川歯科医院 ペリオ・インプラントクリニック インビザライン矯正

2016.10.07歯肉圧排の話

以前、ポストの記事で歯肉圧排の話が出たが、非常に中途半端なので、きちんとした話を。

歯牙に補綴物を装着する必要があるとき、補綴物と歯牙の境界線すなわちマージンが必ず存在する。
この部分の精度が悪いと、プラークの停滞が起こり2次カリエスが発生、歯肉の炎症の誘発さらには歯周病の進行となる。
したがって補綴物の形態、カウンター、プロファイルも非常に重要だが、補綴物の要は、このマージン部と咬合の2つに絞られると言っても過言ではない。
過去に治療を受けたものの、補綴物の境目が黒く出てきてしまっているアレである。
そもそもの補綴物適合性が悪い場合、歯周病の進行による歯肉の退縮、メインテナンス不良、ブラッシング不良、そして咬合力、特にアブフラクションが原因だが、補綴物の適合性が悪い事が一番の原因だ。

マージン設定位置は歯肉縁下、歯肉縁、歯肉縁上に大きく分けられ、主に審美、リテンション、ブラッシング的要件から選択する。
非審美ゾーンは歯肉縁、歯肉縁とすることにより、ブラッシング優先とする場合も多いし、オールセラミックスクラウン・インプラント上部構造上の場合はアバットメントを同色ジルコニアアバットを用いることにより現実的な審美的問題を回避可能だ。
いくらマイクロスコープを用いるからと言っても、最終セット用セメントの除去という観点から、マージンを歯肉縁、縁上に設定することは非常に有効だ。

しかし、審美ゾーンにおいては、設定位置を歯肉縁下とする必要がある場合が多い。
マージン部を歯肉縁下とする場合、歯肉と歯牙の境界を明瞭にしないと、精度の高い補綴物作製は不可能である。
そこで歯肉溝に圧排コードを挿入して境界を明瞭にする作業が必要となるが、これを歯肉圧排という。
歯肉圧排に用いる各種器材。
IMG_0867.JPG

この他にも色々あるが、代表的なものとして、様々な太さの圧排コード、圧排ペースト、歯肉収斂剤(止血も兼ねる)、圧排コードを挿入するための器具。
術式はここでは省略するが、色々あって使い分ける。
健全な歯肉溝なら1〜3mm程度なので、あまり太いものは入らないし、入るなら炎症が消失しているが疑問だし、無理して入れたなら歯周組織の破壊につながる。

DSC_6088.JPG
DSC_6092.jpg
圧排行い、印象から起こした参考用模型。(参考副歯型・・・副歯型といっても分からない歯科医も多いと思うが。)
これら模型はプロビジョナルクラウン作製用、もしくは参考用模型で、最終形成されたものではないが(最終印象はシリコン型印象材で採得し、歯科技工所で模型作製し、基準クリアできていないものは廃棄処分となるため、未トリミング模型は基本的に医院にはない。)
これらを参考に、さらに形態修正、研磨を行う場合も多い。
当該部位以外は他医院で治療行われたものだが、形態、適合精度ともお粗末と言わざるえないが、この時点では問題ないのでそのままとしてある。
副歯型の他に歯列模型、その他いくつかの印象が必要だが、それはまた別の機会に。
インプラントや審美ばかりが脚光を浴びるが、歯科医のウデが一番顕著にさらけ出される部分である。

大事なこと・・・
 保険診療と言えど、この程度の印象(型とり)が出来ていない状態では精度の高い物は望めず、ましてや保険外診療
 云々を勧められても、大した適合精度は望めなく、お金をかけても全くムダであることはハッキリ言える。
 模型を見せてもらえば一目瞭然だが、そんな話は誰もしないし、雑誌も書かない。
 いや、全て白日のもとにさらされるので、言えないのかもしれない。

DSC_6095.jpg
最終印象から起こした石膏模型。
歯科技工士により、マイクロスコープ下においてトリミングされている。
既に最終補綴物(オールセラミックスクラウン)は装着されているため、模型は汚れているが、マージン部に薄っすらとマーキングの跡が残っている。
この線も、マイクロスコープで確認すると「幅」があり、どのラインを取るか経験則による判断が必要。

以上が歯肉圧排ににつて簡単な説明であるが、本当は本1冊程度簡単に書ける。
さらに歯肉圧排以前の話として、歯周組織の炎症コントロール、プロビジョナルクラウンの調整は必須であり、
きちんとした歯牙の形成も非常に大事であることは言うまでもないが、これはまた別の機会に。

マージンが不鮮明な印象しか取れていない状態で、歯科技工士に補綴物作製を依頼(強要?)する歯科医も多いが、私は常々、この模型では補綴物作製不可能と思われたら直ぐ再印象行うので、そのまま作業を行う必要はないと言っている。

マージンが鮮明な印象がとれなかったらどうするか?・・・模型上で歯科技工士が「想像して」そのまま作製するのである。
そんなものが正確な適合、精度を出せるわけがない。
無論、私の依頼している歯科技工士の話ではないが、これが現実である。
繰り返すが、模型を見せてもらうなり、不要になったなら(Br等、保管義務のないもの)貰えばその歯科医の実力はハッキリ分かる。
しかし、そのような論争は全く無いし、色々大がかりな診療器材のご自慢ページ、治療Before&Afterはよく見るが、いったん補綴物が装着されてしまえば、その下がどうなっているか患者は知る由もないのだが、治療の要である。
ぱっと見た目きれいになっていても、中身はガタガタ(根管治療も含めて)ということも珍しくない。
神は細部に宿るということ。
どんなシステムを有していても、それを扱い、治療行うのは人間である。

昨今流行りの光学スキャンも、性能的にはまだまだであるが、歯肉組織環境が整理されない状況では、推して知るべしてある。

全てのプロセスをないがしろにしての治療はあり得ないが、当然、患者さんの意識レベル、協力度も大きな要素であり、ルーズな方にこのような治療は困難である。
逆に言えば、意識レベルの低い方がメインの医院に対して、時間のかかる、コストもかかる複雑かつ高度な治療を求める事は無理とも言える。
これが現実。
別に歯科医院に限った話ではない。